以前、図書館で韓国の短編集「いま、私たちの隣りに誰がいるのか」(安 宇植訳、作品社)を見つけて借りた。この本の表題は、所収第一編にある申京淑(신경숙)の「いま、私たちの隣りに誰がいるのか」から採っている。他の6作品も表題をもとに読みようがあるから不思議だ。そう、隣りに誰がいるのか、または誰がいたのか。
申京淑の作品を探しては読んでいたので、この短編集を借りたわけだ。彼女の作品は、時制が錯綜する文体で始まる。幼い娘を亡くして深い喪失感から冷え切ってしまった夫婦が、あるみぞれ降る夜に幼子を幻想することで、葛藤の後に絆を取り戻す物語だ。彼女の作品にしては、物語的だし随分と泣かせる話だが、そちらへ安易に振られないようにするためだろうか、妻が心を癒すために登った山々の説明や、わが子を幻想した夜の室内を克明に描写している。でもねえ、ほっとしましたよ、最後に和解と新しい命の芽生えを知ることができたのだから。
そうそう、この短編集に収められている作家達はみな、イ・ソンヒと同じ1960年代生まれである。
(本ブログ関連:2009年の6/7、7/24、2010年の1/30)