学生時代のアルバイトで、千葉方面の宅地造成予定の荒地を測量(手伝い)していたことがある。当時としては随分恵まれた報酬を得ていた。早朝出かけては、夕方事務所に戻るわけだが、帰宅途の新宿駅近くにある桂花ラーメンに毎回寄っていた。独特の香りと固麺が癖になっていたのだ。
桂花の意味を考えたことはなかった。熊本にあるラーメン店の名前であり、アルバイト帰りのご褒美の味でしかなかった。
桂花は、中国でキンモクセイ(金木犀)の別称だそうだ。キンモクセイの包み込むような、あの甘い香りとは全く違ったイメージしかなかったというわけだ。
ところで、小金井公園には今、キンモクセイのオレンジ色の花が咲き、甘い香りを漂わせている。江戸東京たてもの園入り口の両側には大きなキンモクセイが立っていて、前を通るひとの足を留めている。広場のベンチに座っていても、香りが風に運ばれてきて、あちこちにそれを話題にする声が沸き起こる。これから厳しい冬に入る前の陽だまりに、ひとときの安らぎを与えてくれている。