地方にいた子ども時代、隣りのクラスと口ゲンカになって、互いの男子が揃って下駄箱から靴を取り出し、投げ合ったことがあった。きっかけは忘れた。
さて、その後始末がどうだったかはっきりしない。靴をそのまま放りぱなしにした筈もないから、きちんと元の場所に戻したのだろう。散らばった靴を見て、子ども特有の感で、それが誰れのもので、どこへ置けばよいか分かっていた。
投げ合っている最中、妙に楽しくて、靴が弧を描いて飛んでいく光景を今でも覚えている。やったぜという気持ちは、多分隣りのクラスの連中も同じだったに違いない。靴箱の靴がなくなると、それで終わった。子どもの熱狂が急にしぼんだのだ。
もちろん、クラス同士が靴投げ合戦しているのを、教師が気付かないはずもない。遠くから高見していたのだ。今思い返して驚くのは、靴を投げあった後に、教師から咎めがなかったことだ。説教された記憶がないのだ。
ある意味、粗野だが、そこに暗黙のルールがあるという、昔の子ども喧嘩だった。それを見て、教師はもう一つ別の大人の視点を持っていたのかもしれない。その土地の気風もあって、腹が座っていたことになる。
私が、この暗黙のルールが全く効かないと気付いたのは、東京の小学校に転校したときのことだった。