日ごろ気になる言葉(たとえば、日本人にとって「青」と「緑」の識別)についてネットを参照してまとめてみた。(感謝。転記の際に一部抜粋したりした)
九州大宰府から遠く奈良の春を思った万葉の歌に、奈良の<枕詞>の「あおによし」がある。「あお(青)に(丹)よし」の「あおに」について、ネット上の資料を参照したところ、「あお」は青色、「に」は土色(丹:赤色の鉱物=赤い土)をさし、奈良県で産出する顔料「岩緑青(いわろくしょう)」*を表わす古名と紹介されている。
(*)岩緑青は「孔雀石」の粉末、古名で「青丹(あおに)」と呼ばれる。(Wikipedia)
■ ネットの資料
・「伝統食のいろは」(管理人 koka氏)
ー https://irocore.com/aoni/
・「枕詞『あをによし』の意味とその変容」(2020.9. 太田蓉子氏、梅花女子大学)
ー http://www.baika.ac.jp/~ichinose/o/202009ota.pdf
「あおによし」は、奈良の山肌に繁る青々とした木々をさしていると思っていたが、どうやら <山土(顔料)> という風土の色彩のようだ。山と樹々の景観は、黄緑の芽吹き、新緑の青葉、紅(黄)葉、落葉と四季移ろうわけで、「あお」ひとつでは足りず、「あおに」を含めて全体として必要なのだろう。
もちろん常緑樹も、凛として艶やかな「あお」で代表する雰囲気がある。そう思い巡らすうちに、青と緑が混沌としてくる。使い分けが曖昧なのだ。
道路の信号機の「青」色ランプは、実際は「緑」色ではという素朴な疑問がある。
■JAF「クルマ 何でも質問箱」
「なぜ信号機は赤黄緑の3色が使われているの?」の「緑なのに青信号と呼ぶのはなぜ?」から抜粋
ー https://jaf.or.jp/common/kuruma-qa/category-drive/subcategory-sign/faq166
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日本では「緑」信号を「青」信号と呼ばれています。信号機の3色は赤・黄・青と表現されることが多く、免許の更新時に配布される交通教本にも、「青色の灯火は進むことができる」と記載されています。
自動信号機が導入された当初は法令上でも緑信号とされ、実際の信号機もやや濃い緑を使っていました。その緑を青と呼ぶ理由は、日本語の「青」が表す範囲の広さにあるようです。青野菜、青物、青葉など緑色のものを青と呼ぶ場合が多かったため、緑信号を青信号と表現するようになったようです。また、赤の対極にある色が緑ではなく青だからという説、色の三原色である赤・黄・青が影響しているという説もあります。
青信号という呼び名が一般に定着したことから、1947年(昭和22年)に法令でも青信号と呼ぶようになりました。さらに1974年(昭和48年)以降に作られた信号機は、それまでの緑より青に近い緑色に変わっています。
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鳥の名にも似たような例があって、「アオジ」、「アオゲラ」は青というより黄緑色や緑色に近い感じがして、色感のあいまいさを気付かせる。なぜそうなったのかネットで検索してみた。
■ 相模原市立博物館の職員ブログ
「黄色いけどアオジ」(投稿日: 2020年1月23日 作成者: 博物館)より抜粋
ー https://www.sagami-portal.com/city/scmblog/archives/21836
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(アオジの)オスですが、どこがアオジ?という色合いです。「森の木々が青々と茂り・・」というように、もともと「あお」は、現在の緑と青を含む色合いを指していました。古語ではさらに広く、寒色系の色全体を「あお」と呼んでいたそうで、灰色も青も緑も、「あお」となります。
アオジの頭はややオリーブ色がかった灰色で、これを指して「あお」となったようです。
ただ、鳥の名前には現在の青色ではない「あお」がよく使われています。
・アオサギ:灰色の部分は確かに青灰色(せいかいしょく)ですが、青色ではないですね。
・緑色のアオゲラというキツツキ、
・アオバトという緑色のハトなど・・。
逆に、青い鳥はオオルリ、コルリ、ルリビタキと、「瑠璃(るり)」がついています。
比較的新しい時代に和名が付けられた海外の鳥の、アオガラやアオショウビンは見事な青色ですが、古語で表現されなかったということなのでしょう。
なお、方言の古語の中には「あお」に黄色も含まれていたという説もあるので、アオジの種名はそこに由来している可能性もあります。
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■マイナビ(2017/03/03 08:00)
「日本語における『青』と『緑』の混用、経緯を解明 - 東北大」(著者:杉浦志保)
ー https://news.mynavi.jp/article/20170303-a058/
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東北大学電気通信研究所の栗木一郎准教授らの研究グループは(2017年3月)2日、日本人に共通する19色名の存在を確認し、30年前の同様の研究と比較したところ、明確な増加が認められた。このことから、日本語における色概念の表現の進化が今なお続いていることが明らかになった。
今回の研究では、「青々とした緑」のような平安以前から継承されている表現に着目し、日本語表現において青と緑の区別がついていることを統計学的に立証するとともに、この日本語独特の言葉遣いの経緯についても解明した。同研究成果は東北大学、東京工業大学・オハイオ州立大学などの研究者による共同研究であり、視覚科学研究分野の学術誌「Journal of Vision」に掲載された。
人間の視覚は100万もの微細な色の違いを見分ける事ができると言われているが、日常的に言葉として使われる色名は「赤」「緑」「青」「黄」など少数に限られる。今回の研究では、人間の最も基本的な視覚情報である色の情報がどのように脳内で形成され、個人差や言語差の影響を受けているかという様子について、計算的・統計的手法を用いて可視化できることが示された。
「水色」は新しい表現
k-平均クラスタリングという統計を用いた解析の結果、日本語話者に共通する19の色カテゴリーの存在を確認した。内訳としては、多くの近代的文化圏で用いられる11の基本色カテゴリー(赤、緑、青、黄、紫、ピンク、茶、オレンジ、白、灰、黒)に、8つの色カテゴリー(水(色)、肌(色)、抹茶、黄土、えんじ、山吹、クリーム)が加わったものとなった。
中でも、「水(色)」は98%の実験参加者が使用し、日本語の基本色カテゴリーの12番目の色名の強力な候補になりうると考えられる。30年前に実施された先行研究(Uchikawa & Boynton, 1987)では「水(色)」は基本色に含まれないと結論された。また、先行研究では「草(色)」が黄緑を指して頻繁に使われる色名として報告されたが、同研究では「抹茶」という回答が「黄緑」を指す代表的な色名として置き換えられたことが判明した。これらの結果は、言語における他の特徴と同様に、色名の語彙が時間とともに変化する様子を表している。
青と緑が分離して使われる経緯
一方で長く変化していない要素もあり、その1つが「青」と「緑」の混用だ。今回の共同研究では、平安以前の日本の和歌における青と緑の用法についても調査した。その結果、「あお」(正しくは「あを」)は明らかに青いものにも緑の物にも用いられ、「みどり」も同様であった。
現在でも、日本語では信号機や若葉、野菜などを指して「青」と呼ぶことはあるが、これ以外の場合では青と緑は明らかに区別して使われる。青と緑が混合した1つのカテゴリーから別々のカテゴリーに分離する過程は、世界中の言語が発達の途上で必ず経過するポイントと考えられている。
これらの結果から、今回の共同研究は、現代日本語の青と緑が異なる色カテゴリーであると示しただけでなく、青と緑にまたがる明度の高い領域に「水(色)」のカテゴリーが過去30年で加わったことを示した。
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どうやら、古代に青色と緑色の混沌を、現代になって水色が入り込んだことで、青と緑を分離した(分離できた)ようだ。
(補記)
色彩として「補色」関係も気になる。青と緑の補色が、それぞれ随分違うのに気づく。
・「青色」の補色は「黄色」
・「緑色」の補色は「紅紫色」
補色関係の妙から、「月明り」=「月影」といった本来反対の意味が、詩的に融合してしまう例にも気付いてしまう。