「日本動物民俗誌」(中村禎理著:海鳴社、1987年)は、日本の諸動物について信仰や伝説などを紹介している。
キツネの項に、狐信仰の経緯が、山の神の使い⇒田の神の使い⇒商業神信仰、へと変遷していると次のように説明している。
・山の神に関連していえば、キツネは同じく山の神に帰属するサルと対抗するもので、稲荷神社は東北日本に多く、後者につながる日吉(日枝)神社は西南日本に多いという。(⇒北日本≒縄文的な見方をすれば古い信仰につながるようだ。)
山という場所がらイヌ(オオカミ)と関連して、例えばキツネの嫁入りとオオカミの産見舞いというひとつの信仰の範疇でとらえられるようだ。
・田の神に関連していえば、田の神の祭場(未開地)に棲むからとか、毛と穀物の色の関連などと諸説あるそうだが。(⇒稲荷の字義のごとく、田の神に直結するようだ。)
・商業神信仰、すなわち稲荷信仰は、キツネの変幻自在に通じる流通過程で利潤を追う職業に近づいたという説がある。(⇒商家の庭先に稲荷信仰の祠が鎮座しているのを多く見られるが、勧請の容易さがあったのではないだろうか。)
キツネの嫁入りは山の神の使者の信仰につながるようで、キツネの不思議な存在を受け入れる余地をわたしたちは古来持ち合わせているのだろう。
(本ブログ関連:”お稲荷さん”、”狐の嫁入り”)
ところで、上記書の著者は、わたしが若いころ、日本の科学者運動について著述していたことを覚えている。生物学史の研究者だった。