KBS WORLD「国楽の世界へ」は、先週水曜日(6/4)に文化的なキーワードに基づく韓国文化シリーズの第59回として、亡くなった者の恨を晴らす儀式「珍島シッキムクッ(진도 씻김굿)」にまつわる話を紹介した。
(本ブログ関連:”巫俗音楽”)
まず、全羅南道の珍島に伝わるお払い「珍島シッキムクッ」の紹介から、次のように始まった。
・珍島は、毎年春に海が大きく割れることで知られ、昔ながらの素朴な風景が残る。4月の珍島沖事故で多数の犠牲が出たが、珍島には亡者を慰める儀式が古来伝わっている。
・命のあるものは、いつか亡くなる。死に対する儀式は、人間としての重要な基準のひとつだ。地域、文化ごと異なる儀式の一つに「祭儀(クッ、굿)」がある。「巫女/巫堂(ムーダン、무당))」が激しい歌舞の中で神にお告げを行う。珍島の「シッキムクッ」は、亡者の恨を晴らし、あの世への道が平穏であるよう願う。「洗い(シッキム、씻김)」は恨を水で洗い流す意だ。珍島シッキムクッは、音楽、踊り、歌が調和した、亡者のための儀式であり、生きる人々全ての命のために行う。
▼ 「珍島シッキムクッ」の中から「シッキム(씻김)」を聴く。巫女の声と太鼓の、人と自然の始原の響きを聞くよう。
次に、水と宗教の関係に見られるものが、シッキムクッにもあると、次のように説明された。
・水は、洗い流す意がある。朝早く家族の健康と幸せのため、水を汲みその前で祈る母親の姿を昔はよく見かけた。仏教や巫俗と同様、キリスト教も洗礼という水の重要な儀式がある。イスラム教は祈る前に、必ず顔と手足を水で洗う。水で体を洗うだけでなく、心と魂を清める。古い自分を捨て新しい存在へ生まれ変わる意があるのだろう。
・水は、新しい世界に進む意もある。東西の神話で、あの世は舟に乗って川を渡る所とされる。古代エジプトと同様、シッキムクッでは、亡者の姿を象徴する巫具「ヨンドン(영돈)」を、水でよく洗い流す。巫女があの世を象徴する細長い白布を敷き、「般若竜舟(バンヤヨンソン、반야용선)」という船を置き、あの世へ道案内する。また、あの世に進むための道を整える儀式「道磨き(キルダックム、길닦음)」もある。
▼ 「珍島シッキムクッ」の中から「キルダックム」を聴く。シッキムと比べて何となく習合の歴史を感じる・・・。
最後に、シッキムクッの存在の意義について、次のように解説された。
・情けを表す表現に、「憎い情、愛しい情」がある。愛しい人は言うまでもなく、嫌いな人も憎んでいるうちに情け深くなるのが人の心だという意だ。残された者の心を慰めることもシッキムクッの意義である。この儀式が行われる間、巫女は歌と踊りで人々の心を揺さぶる。巫女が亡くなった者に代わって話をすると、それを聞く者は涙を流しながら挨拶をし、お互いに恨を晴らすのだ。
▼ 「魂のためのカデンツァ」(アンサンブル・シナウィ)を聴く。現代人の感性に合ったイメージなのだろう、たぶん・・・今様である。