むかし、大学の学生会館に自動販売機があって、男子学生が機器の下側にある<取り出し口>に手を突っ込んだまま体を地面に横たえていた。どうしたのかと周りの連中に聞いたところ、これまで金を払わず<取り出し口>から抜き取ることができていたが、今回それがうまくいかず、装置に手を挟まれたらしい。
しばらくすると、サイレンとともに消防車がやってきた。あわただしく消防関係の人たちがいきかう。でも、そばを通り過ぎる者は無関心を装った。
ところで、当時の学生に人気があったのは、ガラス瓶入りの「チェリオ」だった。甘ったるい味しか記憶にないが、中瓶サイズで量目があった。人工甘味の、特にオレンジだったかをよく飲んだ。上記学生の手をがっちり掴んだのはチェリオの自販機だった。
あのころの若者に広く受け入れられた飲料は「コカ・コーラ」だった。
コーラを飲むのをためらわなかった、ある政党の青年集団は、「ジーパン」(いまの「ジーンズ」)にアメリカのイメージが重なってか敵視していた。そんな彼らが数年を待たず、いつの間にかジーパンをはいているのを目撃してしまった。コーラもジーパンもアメリカの象徴だった時代に。
その後、コーラに飽きたころ、「ドクター・ペッパー」と出会った。コカ・コーラ(ペプシも含めて)に、当初薬品臭を感じたが、ドクター・ペッパーは、それに輪をかけてきつかった。けれど、その刺激がよかった。癖になる味と香りがしたのだ。
最近、スーパーで、ペットボトル入りのドクター・ペッパーを見つけて数度買い求めたが、このごろ商品棚から消えた。年配者の多い住宅地域には不向きなのかもしれない。