KBS WORLD「国楽の世界へ」は、先週水曜日(6/20)に、人物シリーズ33回目として巫俗音楽の名人、金石出(キム・ソクチュル、김석출(1922年2月28日~2005年7月26日)を紹介した。
まず、巫俗(무속)音楽の復習から始まった。(本ブログ関連:"巫俗")
・「巫俗」は古代から伝わる、天地の間に存在するあらゆる物に神が宿ると信じる韓国固有の信仰。
・体調や家によくないことが相次ぐ場合、巫俗をつかさどるシャーマンの「ムーダン(巫堂、무당)」を訪ね、「クッ(굿)」といわれるお祓いを受ける。クッは、原因を突き止められない奇怪な現象が起こったりする時などに行うというイメージがある。
・一方、村や町の平安のために行う地域に土着した巫俗信仰もあり、自然条件の厳しい島や、海岸地域により強く残っているようで、例えば、江原道や慶尚道の東海岸地域では、村単位で2、3年に一度、「東海岸別神クッ」という大漁豊作や村の安泰を祈るためのクッを行う。金石出は、こういったクッを行う際に演奏される音楽の名人である。
(参考)「新羅写真芸術バン」の"東海岸別神クッ"より、感謝。
▼金石出ほかによる、「海岸別神クッ」の中から「セジョングッ세존굿」を聴く。以前にも聞いている。歌中心なので演奏の場面も見たいものだ。(東海岸別神クッで、チャング(장구)を叩いていたのが金石出で、歌を担当したのは彼の妻キム・ユソン(김유선)とのこと)
クッについて、次のよう解説された。
・一般的に、クッを行うムーダンは、神が身体に降りる修行を積むというイメージを持たれるが、この東海岸別神クッはじめ、地方のクッをつかさどるムーダンは特定の家に代々引き継がれた世襲制という特徴がある。幼い頃から見聞きしたクッを、大人になり職業とするので、その芸術的完成度は国楽の他分野に見劣ることがない。巫俗の儀式では、主に女性がクッをつかさどり、男性は楽器演奏を担当するのが一般的だ。
(参考)KBS WORLD韓国語放送ホームページより
・巫俗人(=ムーダン)には二つの種類がある。
・ ソウル、京畿道を中心にその北側地方では、神が下りてムーダンになる降神巫があり、
・南部地方と同海岸地方では、神が降りるということとは関係なしに、家業でムーダンになる世襲巫がある。
次のように金石出のプロフィールが紹介された
・1922年 慶尚北道迎日の(世襲巫の)巫家に生まれる。
・1985年 「海岸別神クッ」が重要無形文化財第82-1号と指定され、その技能保有者となる。
・2005年 没す。
巫俗に対する評価の変遷について解説された。
・現在では芸能保有者として待遇されるようになったが、以前はひどく蔑まれ、差別を受ける身分だった。特に1960年から70年代にかけて、巫俗は風紀を乱す抹消すべき迷信との扱い(学校内の"迷信打破教育"、シャーマン追放などの迷信打破運動)を受けた。それに耐え切れず、巫俗界を離れる人々が続出し、その存続が危ぶまれる時期もあった。しかし困難を乗り越えた人々がいたからこそ、今日、その貴重な伝統がこうして存続することができた。
▼金石出ほかによる、「東海岸別神クッ」の中から、「ムングッサムル(문굿사물)」を聴く。楽隊が村の家を一軒一軒を歩き回りながら、各家の門の神のために演奏された曲だそうで、テピョンソ(태평소)の激しいくダイナミックな響きが素晴らしい。まるでモダンジャズのよう・・・。
(参考)Youtubeに金石出がテピョンソを奏する映像がある。(登録者vibahogunに感謝)
金石出の音楽性について、ユニークナエピソードが次のように語られた。
2010年9月 オーストラリアのドラマーSimon Barkerが金石出の演奏に惚れ込み、教えを請うため、十数回も韓国訪問した過程がドキュメンタリー映画「センキュー・マスターキム(Intangible Asset Number 82)」(監督Emma Franz)として公開された。
(参考)オーストラリア日報(2/23)、感謝。
▼金石出のクウム(구음)とチャングによる「サルプリ(살풀이)」を聴く。落ち着いた雰囲気で。