近所でめずらしく赤ん坊が泣く声がすると思った。でも随分とかまびすしい。重なり合うようにして止まないのだ。どこかでドアがばたんと開き、女性のしかりつける声がした。すると何ごともなかったかのように静まった。
ここ数日暑くて、昼間は猫も出てこない。夕方の帰り道に出くわすことがあるくらい。昨日もそうだった。目の前をゆたり歩く茶色縞の猫の後ろを追うかたちになった。始め気付かなかったのか、それともいつものごとく、睥睨無視する野良猫の気迫を示したのか、歩を緩めることなく先を進んだのだ。
わたしとて自宅近くになれば、足音を立てたくなるもの。気配を感じた猫は、ふっと振り返るや、民家の塀の隙間にゆるりと身を隠した。瞬間、一瞥して、決して恐怖で逃げ込んだのではないと睨みつけた。
そのとき、遠くの角に、うずくまるように白い猫がたたずんでいるのが見えた。そうか、今わたしが後をたどった猫は雄猫で、あそこで横たわっているのは雌猫だったと気付いた。すると、雄猫を待ちかまえていると思われる雌猫の姿が、妙になまめかしく見えてきた。
だから、今夜の猫の騒ぎも、彼らに違いないと納得した。