チンパンジーとボノボ社会を比較した講演会の要約がある。京大連続講座で語られた内容で、「チンパンジーとボノボから探るヒト社会の成立」(伊谷原一教授、2011年10月22日)は、素人にも分かりやすく比較紹介している。
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●チンパンジーの生態
① 地位の優劣と緊張関係
② 道具の使用
③ 雑食性
④ 薬草利用
⑤ オスによる子殺し
●「母権」のボノボ、「父権」のチンパンジー
・チンパンジーは、オスが集団を統率し、少ないオスが2~3倍のメスを集団に抱え込む。
・一方のボノボは、オスとメスの割合が1対1。しかも、メスたちは年長のメスを中心として連帯し、オスに対しても優位性を示すという。
・ボノボには「子殺し」は存在せず、成長後も母親に甘えるオスもいる。伊谷教授は「人間社会でいえば、オスはマザコン。メスは、おばちゃんを中心に徒党を組むので、怖くて文句を言えるオスはいません」とたとえ、会場の笑いを誘った。
・(ボノボの)このような社交的で積極的なメスの存在が、チンパンジーではなし得ない、異なる集団の平和的な共存を可能にしているという。異なる集団間で、メスたちが行き来して橋渡し役となり、「和平」を築くのだ。
・伊谷教授は「人間の家族として成り立つための条件を、ボノボはすべて兼ね備えています。人間のような家族やコミュニティーの形成に発展する可能性を秘めているともいえる」と結んだ。
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人間社会で「父系制」、「母系制」を語るとき、財産の継承が軸になる。それに比べて、チンパンジーやボノボには、不動産的な財産=所有物がない。社会を維持しているのは、融和的な集団力だけなのだ。物に頼らない集団の継承こそ、最も基本的なはず。いかに「コミュニケーション」をはかっているか参考すべきポイントがあるだろう。
そのなかでも、ボノボは共存を主眼にした社会形成をしているという。人間にそのままあてはまれば、素晴らしい社会を期待できる。しかし残念ながら、人間は、チンパンジーでもボノボでもないし、所有の仕方や社会の規模も違うため、別の選択をしたようだ。