青空文庫には、長谷川時雨の、桃と時代に洗練された姿の西王母について記した、掌のような短文「桃」が収められている。西王母や桃への優しい眼差しとは別に、少し視点を変えて、桃太郎の物語を眺めてみよう。
桃から生まれた、桃太郎の生い立ちは不思議だ。彼の母親とは一体誰だったのだろう。もし母親が、山海経の西山経に記された玉山に住む、三千年に一度咲くという仙郷の「桃」を与える西王母だったなら。ちなみに、玉山は西の方位にある。
桃太郎は、配下の猿(申)、雉(酉)、犬(戌)を引き連れて、西に棲む鬼を退治して、金銀財宝を奪い、育ての親である爺さんと婆さんに報いる。五行と十二支から、西は金であり、雉(鳥)を中心に猿と犬が位置する方位だ。物語は、果たして大団円なのだろうか。桃太郎は、なぜ母の住む西の世界から財宝を奪ったのか。なぜ母の元へ帰ろうとしなかったのか。
西王母が、刑罰(五残)を司ったことから、まさに地獄の使者たる鬼と結びつきがありそうな気がする。果たして、西王母と鬼との世界はどうだったのだろうか。