玄関先の蟻(アリ)の行列が消えたよう。もう店仕舞いでもしたのだろうか。
いつもの隊列とは離れた場所で、別働のアリが群がっていたアブラゼミのむくろも見えなくなった。だいぶ前のことだ。今は、羽だけがポツンと取り残されている。
ネットの情報では、セミの羽に殺菌作用があるという。清潔過ぎて、アリたちは敬遠したのだろうか。
置き去りにされたセミの透明な羽に、葉っぱの脈のような羽脈が走っている。それが、地面の風に揺れて、微かに光を反射するのを見ると寂しいものだ。
今年、玄関先で、アブラゼミが最後を迎えるのを二度見た。鳴き声(音)をあげるでなく、ただ羽をせわしく打ち震わせていた。地上に出て一週間、命を終えると聞いている。かれらは、全うしたのだろう。
アリはセミの命を自分たちの巣に戻して、次の命に与えた。玄関先の一隅で、命は次の命に受け継がれる。そこには、見えない生命の大きな流れがある。歳をとると、まるで背中に風音を聞くように、そんな生命の流れを一瞬ふと見たような気がする。