寒さが薄らいだようだ。ストーブを何度か消して、部屋の温度を調節したりした。このまま、春に突っ走って欲しい。
昔の着物スタイルには、袂(たもと)に手を入れて寒さをしのぐことがある。反対側の袂に手を入れて、両手を組むようにするとちょっと雄雄しく、手の側の袂にそのまま収めてしまうとちょっと滑稽に見える。着方ひとつで様子が変わる。
そんな袂の中に入れていた石にまつわる伝説がある。その石が大きくなるというのだ。柳田国男の「日本の伝説」に「袂石(たもといし)」の項があって、約36種の資料から紹介している。
基本的に、意図或いは無意識に、それも小石から荷運びのバランスをとるためまで含めて持ち帰った石や、自然に現れた石が、次第に大きくなり、結果として、元来名もないはずの石に名が与えられ、霊力を信じられるようになるという伝説だ。
(参考)
「日本の伝説」の「袂石」の項にある、始めから9例ほど伝説を分類した。
伝承 採取者 採取場所 設置場所 大きさ
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備後 百姓 安芸宮島参詣 小さなほこら 高さ一尺八寸、周り一尺二三寸程
信州 農民 富士 家の近く 大きな岩
信州 女 天竜川の川原 水神様の前 大きな岩
熊野 - - ほこら 大きな円形の岩、高さ二間半、周り七間
伊勢 菅公 播州袖の浦 菅原社 高さ五尺ばかり
土佐 曽我兄弟の母 関東 山 高さ二間半、周り五間
肥後 神功皇后 三韓征伐 海の水の底 滑石という青黒い色の岩
筑前 神功皇后 (産み石) 海岸の岡の上 三尺余り
下総 (ある家)主人 紀州熊野 ほこら -
(以下略)
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現代、人が見向きもしない石に、名が与えられたばかりに、石好きは熱中し、嫉妬し、度を越すことがある。それは、石だからそうなのではなく、対象が何であれ、誰もが陥る「言葉」の罠にはまったからかもしれない。宗教的な信仰が、科学の信仰に変わって現れているだけかもしれない。
(本ブログ関連:”石の世界”)