「夏土用入り」を迎えて、鰻料理の話題が増えてきた。「土用の丑の日」(7月30日)まで、あと10日あるというに、鰻丼、鰻重、ひつまぶし、吸い物・・・すぐに浮かんでくる。
以前、下町にいた頃、通りに面した店先を大きく開けた鰻屋があった。焼いて売るだけの店で、食を楽しむ場所はない。いかにも合理的、焼きに徹した店だった。煙と一緒に、鰻の焼ける香りが、風通しのよい歩道辺りに充満する。歩む体が思わず店側に重心を傾けそうになる。それほど食欲を誘った。
近頃、隣り町にあった鰻屋を訪れたが見当たらない。結構繁盛していたのにどうしたことだろう。街角を幾度も往来したがだめだった。記憶力が心配になる。見つからないと思う心と焦りに、食欲が増す。
どうしたわけか、牛丼屋でも鰻丼を出すようになった。大量廉価販売のファストフードのメニューに、絶滅危惧種といわれる鰻の料理が載るなんて、どんなカラクリがあるのだろう。不思議でならない。スーパーでもパック詰めのものが売られているが、どうしても手が出ない。鰻は鰻屋で食うに限るようだ。
とはいえ、このところ鰻はさっぱりだ。昼食にひつまむしを食った後、半日胃がもたれたことがある。以来、美味そうだから食う段階は過ぎたようだ。今では食って美味しいものに限る。歳とともに食が細るに通じるようで、ちょっと淋しい気もする。