テレビ東京の「美の巨人たち」は、小林薫の淡々として飄々とした語り口で、美術作品を様々な視点で解説する番組だ。先週(10/15)、伝ブリューゲル「イカロスの墜落の風景」を紹介した。
(大)
ピーター・ブリューゲル(
Pieter Bruegel, 1525/30年-1569年9月9日)の絵は、芸術作品というより、身近に馴染みやすい、もっと言えば、庶民の体臭さえ感じる。北方ルネッサンス絵画の中で、遊ぶ子どもたちの姿を、収穫の農作業にくたびれて昼寝する農民の姿を、最も人間らしく描いた画家ではないだろうか。以前、本ブログで触れたこともあるが、思い出方々、思ったまま再度記してみよう。
私の中学時代に、国別・時代別の大部の美術全集が学校の図書室に並んでいて、借り出しては、退屈な授業の合間に眺めていた。その全集の中にブリューゲルの作品が収められていた。
当時、「農民画家」と呼ばれて妙な持ち上げ方をされていた。美術全集の中の彼の作品を見れば、そんな評価に違和感を感じたものだ。子どもなので、ボッシュの系列に位置づけられたりする奇想さに関心もあったけれど。
高校時代になると、画家別の手頃な全ページカラー印刷の美術全集が登場して、ブリューゲルもその1巻となった。いろいろな意味で、ファン層が拡大したと思う。
社会人になって、ブリューゲル研究の第1人者である、森洋子教授のオープン講座に出席したところ、なんと会場を中年女性が埋め尽くしていた。海外旅行先を主要商業都市から、競い合うように地方古都市に移していったように、ブリューゲルにも関心が向けられたのだなと複雑な気持ちになった。(ああ、中年女性を敵に回してしまった・・・)
農夫であれ、職人であれ、商人であれ、そして彼らの子どもも含めて、庶民という名に生きて、働き、いつか死ぬひとびとの本当の強さを、ブリューゲルは感じていたのかも知れない。神や神話との距離の同心円内に、庶民も見ていたのだろう。
歴史を超えて、日々働き生活する庶民は、保守的だが強固にその立場を守る。ブリューゲルの絵に、そんな庶民の力強い生活観がいきいきと見えてくる。とはいえ、彼は安易な接近や同調もしなかったろうし、シニカルな目も持っていたことだろう。庶民だって、そのことは承知していたと思う。
今よりも静かな時代、遠くの教会から鐘の音が聞こえてくる、そんな農村風景の中に身を置いて、ブリューゲルの絵を眺めてみたい。
私の好きな、ブリューゲルの絵は、「農家の婚礼」と「農民の踊り」だ。
(本ブログ関連:"
イカロス")