まだ紅葉の気配はない。後10日もすれば「立冬」だというに、今年の秋は夏が入り乱れ、それらしい気配に乏しかった。とはいえ、夜分に冷気がしみ入り、エアコンの暖気が必要だ。赤い炎のストーブが意外に早く登場するかもしれない。
秋の歌に唱歌「旅愁」がある。Wikipediaによれば、原曲ジョン・P・オードウェイ(John P. Ordway)のものに、明治40年(1907年)、犬童球渓(1879年~1943年)が訳詞を付したものだそうだ。
この歌は、「北帰行」ほど異国に孤独でなく、さりとて夢破れて旅するに、ふるさとの父母を懐かしむほどで、時代を断ち切っての放浪だったでもなかろうから、唱歌として歌われたのかもしれない。(歌詞の成立に深入りするのは、返って想像を萎ませる野暮かもしれない)
そんな歌を、破天荒に旅する兄を愛しむ妹「さくら」役が似合った倍賞千恵子が歌うと、旅先にほんのり明かりが灯るよう。生真面目な下町娘のイメージに、心が休まるというもの。さくらが、上野駅の地下通路にある小さなラーメン屋で、旅に出ようとする兄寅次郎に、皺になった五百札をのばしながらそっと渡す場面を忘れられない。
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