中国には、大袈裟な表現が好まれる中でも、悠々として奇なる仙人がいた。秘薬を操れたのも彼らだろう。古い本草学(者)のようなものか、そんな一人である「卭疏(きょうそ)」について、仙人のカタログ書のような「列仙伝」に語られている。
石由来の長寿の秘薬、石鐘乳を煎じたようだ。一体どんなものか気になり探してみた。「鑑賞中国の古典 抱朴子・列仙伝」(角川書店)の「列仙伝」(平木康平、大形徹)に、次のような解説がある。さらに、<四言八句の讃>が付加されていて、「五石」が記されている。(平凡社版の「列仙伝・神仙伝」には、この讃はなかったけれど)
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卭疏(きょうそ)者、周(しゅう)封史(【諸侯の領土の区域を定める官】)也。能(よく)行気(気をめぐらし)錬形(形を錬り【肉体を鍛錬する】)、煮石髄(石髄を煮て)而服之(之を服す)。謂之(之を謂う)石鐘乳、至数百年、 往来入(往来して入る)太室(【河南省登封県の北に連なる嵩山の異称、その一つにある】)。山中有臥石・牀枕焉。
八珍促寿 五石延生 山海の珍味を好めば寿命縮まる、されど五石は長寿の秘薬
卭疏得之 錬髄餌精 それを卭疏は手中におさめ、石髄練って精粋を摂る
人以百年 我享千齢 人は願う百歳の寿、わしの齢はすでに千歳
寝息中嶽 遊歩千庭 奥山に身を横たえて静かに憩い、そぞろ歩かん仙人の庭
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解説によれば、「石鐘乳」は鍾乳石であり、また「五石」は五種類の石(長生薬、丹砂、雄黄、白礬石、磁石)を混ぜて錬りあわせて服薬したそうだ。また、「行気」・「錬形」の呼吸法についても触れて、服薬と合わせてバランスが取れているという。
・鍾乳石から垂れる水を飲むならば、さぞや硬水だったろうし、さしずめ、Volvicといったところか。
・五石の「長生薬、丹砂、雄黄、白礬石、磁石」とは具体的にどんな石なのだろうか。これから調べたい。
五石について、「抱朴子」は「丹砂、雄黄、白礬石、曾青、磁石」(広辞苑)という。また、「五石散」というものがあって、「鍾乳石、硫黄、白石英、紫石英、赤石脂」を練り合わせた薬を指すようだが、中毒性があって絶えず散歩の必要があったことから「散歩」の語源になったという。そう考えると、上記<四言八句の讃>にある「寝息中嶽 遊歩千庭」はちょっとあぶなっかしい気がする。