先日(8/26)のブログで、一般公開講座「ロシア・スラヴの言語と文化入門」(最終日)の帰り道に、クラスの仲間と地下鉄「茗荷谷」駅近くにあるロシア料理店「ソーニャ」へ行ったことを記した。食後にロシア式紅茶を頼んだところ、紅茶入りのガラス・カップと一緒に、ジャムを盛った小皿とスプーンが運ばれてきた。
(本ブログ関連:”紅茶”)
そのとき仲間がいうには、スプーンにジャムをすくって口に入れ、合わせて紅茶を飲むというのだ。てっきり、カップの中にジャムを入れ、混ぜて飲むものと思っていたがそうではないらしい。ためしにジャムを口にすると随分と濃く甘いけれど、熱い紅茶をふくませると、口中に蜂蜜と練り混ぜたイチゴジャムの香りが広がった。なるほど、こういう飲み方もあるのかと納得した。
ところで、むかし読んだ「オール読物」(平成18年(2006年)、5月号)に連載「とは知らなんだ」(92)の「ロシア式紅茶はどこから?」(鹿島茂著)に、ロシア式紅茶の飲み方について興味深い話題が載っていた。
仏文学者の鹿島氏がソ連時代のモスクワ空港で、フルーツ・ジュースを飲みたくて、バー・マンにフランス語でフルーツ・ジュースを頼んだところ、甘いドロドロの果汁が渡されたという。それは一体何か。沼野充義夫妻の著「世界の食文化 ロシア」の中に、次のような記載があると紹介している。孫引きになるが、「そもそもロシア式のジャムは『ヴァレーニエ』と呼ばれる果物の砂糖煮で、日本でいうジャムほど煮込まない、つまり別ものである」という。鹿島氏がモスクワの空港で口にしたのは「ヴァレーニエ」だったことになる。
その「ヴァレーニエ」と紅茶の関係について、沼野夫妻の著は、紅茶を飲む際に「お茶うけ」にするという。「ヴァレーニエをスプーンで一口食べて(舐めて?)お茶を飲み、またヴァレーニエを口に入れてお茶をすする、という飲み方だ」としている。
連載にある「ロシア式紅茶はどこから?」の後半に、日本では紅茶にジャムを溶かして飲むという習慣について、沼野夫妻の著と合わせて鹿島氏ともども由来を推測されている。ロシア革命後に亡命して来日した白系ロシア人の風習を見間違えたとか、戦後のシベリア抑留体験の中で見たソ連人の風習を日本風に解釈し直したとか、昭和三十年代の歌声喫茶でロシア式紅茶の飲み方に新解釈があったとか・・・。いずれにしても正解はなさそう。