冬の怪談というか伝承に、「雪女」の話がある。次のようなストーリーだ。
吹雪のため小屋に避難した二人の木樵(きこり)が雪女に遇う。雪が静まるのを待つうち、一人は寝入り、もう一人は寝付けずにいた。そのとき、雪女が小屋に入ってきて、寝てしまった男にそっと息を吹きかけ、それを目撃した若い男には、ことを他言せぬよう約束させて消えた。翌朝、雪女に息を吹きかけられた男は死に、若い男は幸運にも生き残った。(今様にいえば、凍死であり、あるいは死の寸前の幻覚だったのかも知れない)
後に、若い木樵は、町へ奉公に行くという美しい女と出会う。それを止めさせて、二人は結ばれ、子どもたちの親となる。男は、妻の美貌を雪女に例えて喋ってしまう。そのとき、妻は「その雪女こそ私だ。他言せぬとの約束を守れなかったお前に対し、本当ならすべきことがあったが、今は子どもたちがいるので」といい姿を消した。死を免れたのだ。
雪女という超越した異類との婚姻譚であり、神話にある見てはならぬ禁忌を犯す話しでもある。後の安倍晴明の母親に当るという狐が、思いを残す「葛の葉」の別れの場面を想起する。これらが折り重なった物語だ。
(本ブログ関連:”異類婚姻譚”、”葛の葉”)
さて、この物語の舞台、東北や日本海側の豪雪地帯をイメージしていたところ、青空文庫に、小泉八雲の「怪談」集に収められた「雪女」があり、「武蔵の国のある村に茂作、巳之吉と云う二人の木こりがいた」で始まる。豪雪を背景にするには舞台が随分違う。さらに、田中貢太郎の「雪女」では、「多摩川(たまがわ)縁(べり)になった調布(ちょうふ)の在」とより具体的になっている。二人の作家は同じソースを使ったようだが、舞台が江戸(東京)に近いとは驚きだ。
そんな舞台なら、もしかしたら、私も雪女に遇える可能性がある。