大岡裁きに、赤ん坊をわが子と主張し合う訴えに対し、実の母ならばこそ示すであろう愛情を証左に、人情味ある政談をくだす話しがある。
しかし、誰もが正直とは限らない。両者の日ごろの諍(いさか)いを見極める必要がある。真実がどこにもないかもしれないからだ。
「かえるの王様 : ラフォンテーヌ童話集」(ラ・フォンテーヌ著、山川篤訳、創芸社、昭和23年:1948年)に所収の「おおかみと きつねの さいばん」*は、皮肉な目を養う結果につながるだけかもしれない・・・。(抜粋)
(*)https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1168482/35
(登場の動物をカタカナ書きに変更)
------------------------------------------------
一ぴきのオオカミが どろぼうに入られましたと言って さいばん官のサルのところに うったえ出ました。
オオカミは となりにすんでいる キツネが 大へんびんぼうだったので このキツネがとったのではないかと うたがって そのことを さいばん官に うったえました。
サルのさいばん官は そのあらそいを じっと聞いているうちに 両方とも心のよくないことが わかりました。
「しずかにしなさい。お前たち二人とも 昔から よく知っている。どっちに ひいきする と言うこともできぬ。だから 二人とも ばっきんを はらわねばならぬ。
オオカミよ お前は 何もとられなかったのに とられたと うそをついたばつだ。
キツネよ お前は オオカミのものをぬすんだばつだ。
心のよこしまな者は たとえ悪いことをしなっくても 悪いことをしたと思われるものです。いまのキツネのようにです。さいばん官のサルから 両方がばっせられたのも しかたが ありません」
------------------------------------------------
オオカミは嘘をいったので罰金、キツネは日ごろの行ないから罰金。読者をキツネに寄せて、日常に身をただしておくことを諭しているのかもしれない。
でも、オオカミが痴呆で勘違いしたかもしれない。そうなるとキツネはとんだとばっちりを受けたことになり、裁判官のサルの裁定は最低!となってしまう。