「こどもの日」に、子どもたちがきらきらした陽を浴びながら、原っぱを元気に駆け回っている光景を想像する。晴空がふさわしいが、5月5日の東京の天気出現比は、(晴れ):(曇り):(雨) =2:1:1 のようだ。いつも良い天気ばかりとは限らないことになる。それだと、「立夏」の意味する <夏の気配が始まる> とか、<五月晴れの爽やかな風> といった情景にもつながらなくなってしまうが・・・。実際、きょうの天気具合もそうだった。
子どもの日に合わせた風物に「鯉のぼり」がある。子どもたちが健康でのびやかにすくすく育って欲しいといった願いから、鯉の吹き流しを庭先に飾り立てるのだが、今の時世、吹き流しの鯉を自由に泳がせる余裕がない住宅事情とか、竿先の飾り(矢車)の音がうるさいと苦情が出るとかで、近隣の住宅街であまり見かけないのが残念。
鯉のぼりといえば、なつかしい文部省唱歌「鯉のぼり」(作詞不詳、弘田龍太郎作曲)がある。歌詞の一番は次の通り。(最近あまり歌われないという)
「鯉のぼり」
甍(いらか)の波と雲の波、
重なる波の中空(なかぞら)を、
橘(たちばな)かおる朝風に、
高く泳ぐや、鯉のぼり。
ところで、子どものころ、歌の出だしの「甍(いらか)の波と雲の波」の「甍(いらか)」が何であるか深く考えることなく歌っていた。漠然と「屋根」をイメージしてはいたが、中学の国語の教科書に載っていた、三好達治の「甃(いし)のうへ」(詩集「測量船」所収)の詩を学ぶことで、あらためて「甍」が <瓦(かわら)屋根>であることを確認した。
なにより擬古文調の響きの良さと、ロマンチックな雰囲気(映像化できる)に引き込まれた。国語教師が、この詩の情景について熱く、そして語彙をていねいに解説してくれた記憶がある。読み返すとなつかしく、こそばゆい気がしてくる。
「甃(いし)のうへ」*
あはれ花びらながれ
をみなごに花びらながれ
をみなごしめやかに語らひあゆみ
うららかの跫音(あしおと)空にながれ
をりふしに瞳(ひとみ)をあげて
翳(かげ)りなきみ寺の春をすぎゆくなり
み寺の甍(いらか)みどりにうるほひ
廂(ひさし)々に
風鐸(ふうたく)のすがたしづかなれば
ひとりなる
わが身の影をあゆまする甃(いし)のうへ
(*)青空文庫に掲載: 三好達治の詩集「測量船」より
https://www.aozora.gr.jp/cards/001749/files/55797_55505.html