しばらく振りに、近在の街の書店へ行ってみた。いつも利用する書店とは反対の側の街だが、ここの大型書店は欲しい本がだいたい見つかる。それに、ぶらぶら書棚を巡ると自然に手が伸びる出会いもある。そんな幸運に得した気分になる。
イディッシュ語で作品を上梓して、ノーベル文学賞を受賞した作家アイザック・バシェヴィス・シンガー(1902年~1991年 יצחק באַשעװיס זינגער イサック・バシェビス・ズィンゲル)の短編集「不浄の血 アイザック・バシェヴィス・シンガー傑作選」(西 成彦訳、河出書房新社)を手にする。イディッシュ語作品が英訳されたことで、広く知られたようだ。巻末の解題にイディッシュ語について、および翻訳のいきさつについて解説がある。
(本ブログ関連:”イディッシュ語”)
短編集の表題作である「不浄の血」(田中壮泰、西成彦訳)は、実直不器用な老人が晩年こともあろうに評判の悪い女(リシェ)と結婚することから始まる。まさに、作品の書き出しの通り「血への情熱と肉欲」の顛末だ。毒婦であり、淫蕩な女は、男を連れ込み、ユダヤ教のカシュルート(コシェル:食事規定)を全く無視した商いをする。しまいに棄教に追い込まれ、山月記の悔恨に遠く及ばぬ獣そのままに最期を迎える。
「不浄の血」は、転がりながら物語を混沌、変質する。だから最後は、伝承のように子どもたちに次の歌をうたわせて終わる。最も最後の詞は、言葉がずれて回転する・・・「片輪車」のように炎に包まれて回り続けるのか。
リシェはひどいよ
馬を屠った
おかげで腐る
地のなかで
(略)
魔女なんて生かしちゃおけぬ
なんて生かしちゃおけぬ魔女
生かしちゃおけぬ魔女なんて