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2014年11月21日金曜日

小川未明の童話「石をのせた車」

小川未明の童話「石をのせた車」は、生きることの刹那を知る、まるでスケッチのような短文だ。主人公は、時間が重荷になった大人ではない、時間を抱いて生きていく少年である。しかし、時代は残酷だ、乞食という言葉が通用したころの童話である。

あらすじ:
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あるところに病身で身寄りのない、歳の頃十五の少年がいた。生きるすべを失いかけていたとき、通りがかりの老婆に温泉で養生するように勧められる。しかし、その費用を工面する当てもなった。仕方なく、少年は意を決し底辺に身を置くことにした。人に銭を恵んでもらうことだ。

あるとき、四つ筋に立って、行きかうひとに小さな手伝いをして小銭をためた。もちろん十分ではない。その晩、物乞いたちが集まる処に身を寄せて過ごすことにした。新入りの少年は、正直に、四つ筋でのいきさつと小銭について話した。脅され危うく小銭を取り上げられそうになったのを救ってくれた男に、翌朝、四つ筋を横取りされてしまう。

途方にくれた少年は、坂道を上がるのに難儀していた「石をのせた馬車」を押してやる。その時、きらりと輝く小石が落ちた。坂の上まで登った御者は礼もいわず立ち去った。少年は落ちた石を拾い町に出た。ある店で石を見せたところ、星のかけらのような美しい紫色のその石を主人は買ってくれた。もっと欲しいとまでいわれた。

物語の最後を原作のまま載せる:
「少年は、その店から出て、往来に立ちましたときに、また、今夜も、あの坂の下に待っていて、もし、あの車がきたときに、後を押してやろうかなどと考えましたが、なんでも、いい機会というものは、二度あるものでない。お開帳の日だって、つぎの日には、あんなことがあったと考ると、旅費のできたのを幸いに、はやく目的地をさしてゆこうと決心したのであります。」
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