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2017年5月5日金曜日

「走れ、走って逃げろ」

イ・ソンヒが主題歌を歌ったTVアニメ「走れハニー(달려라 하니)」(1985年~1987年放送)は、幼い頃に母を病気で亡くした少女ハニーが、しかもその後、父親が女性タレントに心移りするといった辛い境遇にありながら、中学の陸上選手として成長するスポーツドラマだ。

(本ブログ関連:”走れハニー”)

体育教師との強い絆に見守れたハニーは、目標と心の支えを得たればこそ、自分を見つめ陸上選手として活躍することができたのだろう。ソウルオリンピックの前年まで放送されたという。

似た題名だが、児童書に「走れ、走って逃げろ」(U. オルレヴ、母袋夏生訳、岩波少年文庫)がある。体験に基づくもので、時代は遡り、第二次大戦中のポーランド国内の農村や森に逃げて生き延びたユダヤ少年の幸運な出会いを語っている。このGWに読んでみたらと、教室で先生から紹介されたものだ。

死者は語ることができないといった話を先生はされたと思う。主人公(スルリック、逃亡中「ユレク」と名乗る)は、8歳から12歳ころまでの間に生死を分けた、そして偶然といっていい出会いに救われる。幸いにも過去を語る側に立てたのだ。彼は、街角や森の奥に隠れ住むユダヤの少年たち、牛飼いのため雇ってくれたポーランドの農民家族、逃亡を見て見ぬ振りしたドイツ兵。一個人で相対したとき、素の人間があらわれ、善人もいれば、恐怖の人間もいた。

私が子どもの時代でも、まだ戦後の余韻が残っていて、テレビは今では考えられないほど太平洋戦争の記録映画を放映したし、漫画雑誌に少年の戦闘機パイロット物語が連載された。だから、戦争経験者の体験記も文芸春秋の特集号として掲載された。子どもながらに読んだ印象は、銃弾の銃創の激痛であり、ひもじさであり、果てのない逃走の記録だった。生き残った人々の言葉は、直接的で、肉体的なものだった。彼らの言葉には、その後語られるような分析はなかった。

「走れ、走って逃げろ」もそうだ。過去も明日もない、今日をどうやって生き抜くか、それが精一杯なのだから。もし、少年の回想に、死を身近にする場面があるとすれば、逃走の途中、偶然再会した瀕死の父の言葉かもしれない。生きるためにすべきこと、そして忘れてはならないことを、父親は早く逃げるようさとしながら語った。

結果、少年は生き抜いた。体験者(主人公)の話をもとに著された「走れ、走って逃げろ」は、似た経験を持つとはいえ、作家(著者)の手になるものだ。もし本人が体験記として書いたらどうなったか気になるところだ。

(本ブログ関連:”ひまわり ”、”シェルブールの雨傘”、”君の名は”)

(5/6追記)
今日(5/5)は、祝日「こどもの日」であり、春分と夏至の中間で夏の始まりを示す「立夏」だ。実際は、明日・明後日の土日の休日が残っており、GWがまだ続く。