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2011年5月31日火曜日

記憶の本

手元にないけれど思い出深い本がある。

(この絵本の記憶については、以前の本ブログで記した(2009年11月5日)ものだが)
昔、父の書棚に子ども達に見せてくれたことのない絵本があった。ときどき、だまってのぞいたが、結局行方を知らない絵本である。A4版ぐらいのサイズの薄い本だった。紙質のよくない頁は、のっぺりと黒地に塗られており、白のシンプルな線で物語が描かれていたような気がする。頁一面の暗黒の巨大な渦のなかに船が引き込まれていく不気味なページがあった。圧倒的な黒色の迫力を今も思い出される。

中学校の図書室の書棚に不似合いな、薄茶の乳白色と記憶しているシンプルな表紙に薄い文字で「TVA」のタイトルのある専門書*があった。そもそもTVAの意味も知らずにページをめくると、「Tennessee Valley Authority(テネシー川流域開発公社)」の略語であることがわかった。ただ、ダムの写真が気に入って、大人になった気分で、無謀にも挑んだ読書だったが・・・。
(*)書名:「TVA―民主主義は進展する」 (D.リリエンソール著、和田小六訳:1949年)

経済不況対策の公共事業でダムを作ったこと、「オーソリティ(Authority)」という発音が気に入ったことぐらいしか記憶に残っていない。大恐慌の時代背景や、公共投資政策について知識と理解がない子どもには、その本の装丁の色や重さと、文字数の膨大さくらいしか覚えていないのは当然だろう。

昔、息子がアメリカにホームステイでお世話になるとき、神保町の靖国通りに面したタトル商会で探した英語版の竹取物語の絵本をお土産に持たせた。やや小型ながら、昔懐かしい古風な絵本で色彩が美しいものだった。創作童話が中心の最近の絵本には見られなくなった旧い装飾的な画風が、返って外国人に好まれるのではと思わせた。しかしながら、本来の日本語による絵本として、書店に見ることは当時も今もない。
せっかくのプレゼントなのに、パッケージにこだわらなかったことが、いまでも悔やまれる。


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