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2009年5月25日月曜日

患者数

新型インフルエンザの患者数は日ごと増えている。当たり前としてとらえているが、驚くべきことは、その数字が個人レベルまで把握された実体であることだ。バックグラウンドに潜在する検知できない患者がいたとしても。
疫学とは別の感想であるが、なぜ患者数を正確に知りたがるのだろうか。西欧の古い記録に、当時の社会的水準では到底測りえなかったはずの戦乱の死傷者数を精緻に記録しているものがある。人は見えない空白の存在を恐れるのだろう。たとえば空間に対する恐怖が、造形の隅々まで描きこむゴシック様式を生み出したように。あるいは、聖母子像のマリアの衣装の複雑なひだを逃すところなく描き込むように。どこか神経症的にあいまいさを恐れるときがあるのかもしれない。いま、新型インフルエンザの身に迫る漠然とした恐れから、逃れんとしてもすべもない苛立ちの中で、日ごと患者数を聞きなおしている。わたしたちの視点は、いつも内と外をさ迷っている。